なぜ津軽塗りをやろうと思ったのか

文化服装学院を卒業後、イギリスとイタリアに一年間ずつ滞在しました。ヨーロッパ滞在中に感じたことは、古い物であっても良い物は良いと、強い誇りを老若男女問わず持っていることです。たとえば建造物でも、すべてとり壊して作り直すのではなく、昔のスタイルのまま現代の生活に合わせて、直すといったやり方でした。

イギリス滞在中お世話になったフレッドというおじいさんは、食器は普段使うものだけ、テーブルクロスもシンプルなものが2〜3枚あるだけでした。でもフレッドの生活は、のんびりと庭でお茶を飲んだり、居間でレコードをかけて踊ったり、イングリッシュガーデンに行ってお花を見たり、暮らしの表面から想像できる以上の豊かなものでした。

イタリアのフィレンツェでは、歴史的建造物が当たり前のように立ち並び、職人達の技があちらこちらにあり、町を歩き教会に入るとルネッサンス時代の壁画や彫刻を体感できました。古いものばかりかと思うと、ドルチェ&ガッバーナやエミリオプッチなど、流行の最先端のファッションなどが生まれ、最近良く目にするキッチン雑貨のアレッシなど、イタリアでは古い物と最新の物とがうまく融合している所に、私はとても魅力を感じました。

「日本はいま経済的に豊かな国として世界の注目を集めているけれど、今後もし貧しくなってしまったらどうなるのだろう。」と当時日本や自分の将来を危惧してしまいました。それは外国人の友達に「浩子、もし私が日本に行ったら何を見せてくれるの?」といった質問がきっかけでした。私がイギリスやイタリアになぜ魅力を感じるのかを考えたとき、それは自分の国にない「文化」があるからだと思いました。だから外国人も同様、自分の国にはない日本文化に興味を持つことは自然なことだと思います。

帰国後、危惧する気持ちは大きくなりました。街に出ればブランド物を身に着けた若者だらけ。決してブランド物を否定するつもりはないけれど、ヨーロッパの若者は分相応の着こなしをわきまえていたような気がします。そして、私の家の近所を散歩しても、子供の頃の懐かしい町並みも変わってしまいました。昔あったお菓子屋さんや本屋さんももうありません。青森から帰ってきた今でも、目まぐるしく変わっています。

そんな中、自分は日本文化に携わる何かがしたいと考えるようになりました。その時たまたま目にしたのが祖母が愛用していた赤の重箱で、それは唐塗りという手法の津軽塗りでで仕上げられていました。

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